ある色を、それとは異なる単色の線描のみで再現することは不可能だが、ペンや鉛筆などでスケッチをする際には、しばしば色情報を便宜的に斜線や十字線、塗りつぶし等で表現することがある。その表現方法は人によってまちまちであり、表現者の主観がダイレクトに作用するといえる。グラフィックデザインで不可欠な色の表現法として「CMYK」があるが、その組み合わせで作る色値、たとえばC(シアン)100、M(マゼンタ)100、Y(イエロー)100、K(クロ)100という色は不変であり、誰が彩色しようが当然同じものが再現されるが、それを線描で表現するとどうなるだろうか。もちろん色情報を正確に伝達はできないが、途端に表現の幅は無限に広がる。とりわけCMYは色の三原色であり、混色で生まれる色ではないため、理屈の入る余地はほとんどなく、ただただ表現者のイメージや空想の産物となる。これはモノクロ表現やペトログリフ(線刻)のような原始の美術を想起させる。今作品ではシアン、マゼンタ、イエロー、クロという近代が産んだ色をプリミティブな線描で表すことで、鑑賞者に表現の多様性や可能性、あるいは不可能性を考えてもらうことを企図している。
CMYKドローイング, 2019
W80xH20cm 桧材、アルミ、ペンキ