人間とディスプレイの距離はますます近づいてきている。電子メールを確認したり、ニュース記事を読んだり、日常生活で最もよく目にする文字は光でできたデジタル文字だ。ディスプレイで表示される、赤、緑、青の光の配合が限りない色の再現と精細な描写を可能としている。デジタル文字はワンボタンで生まれ、ワンボタンで消える。存在が極めて希薄で、なおかつ「フォント」によって画一化されており、無機質な記号と化している。
一方、手書きのアナログ文字には、様々な個性が宿る。たとえば、インクや黒鉛、墨といった素材の他に、男性らしさ女性らしさ、怒っている時の殴り書き、絶望で震える文字、急いでいる時の走り書きなど、文字を構成するエレメントが豊富で、受け手の想像力を刺激する特性がある。人間の目に見やすく映ることが使命であるデジタル文字とは違い、有機的で情緒に富んでいる。
しかし、デジタル文字を拡大すると、文字を形作るピクセルという小さな四角形のエレメントがあり、1677万もの色で表示される。たとえ黒色の文字であっても、多彩な色を用い、人間の目にとって黒と知覚しやすい組み合わせで表現される。普段感じる無機性に反し、そこにはまるで人間の意図や感情が表されているような、あるいは美を追求した絵画に似た豊かな表情が浮かび上がる。
本作品では、毎日のようにディスプレイで見る小さなデジタル文字を拡大し、絵具でキャンバスに再現することで、表示装置と電力に依存した極めて不安定で儚い存在から、永続的に実体としてあり続け、そして鑑賞される存在へと変換した。記号化が深まることで様々な有機的エレメントが失われた反面、獲得された無機的で美しいエレメント。身近にありながら変化を続ける文字と人とのあり方にフォーカスした作品である。
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Elements , 2016-2019
10*10pixels W27.3xH27.3cm 13*13pixels W45.5×H45.5cm アクリル、キャンバス