刺身のつまとして添えられる食用菊にはそもそも、菊に備わる解毒効果による生魚の殺菌を目的としているが、今やスーパーなどで売られている商品にはプラスチック製の菊に代替されている。そこにはもちろん殺菌作用はなく、ただ飾りの存在でしかない。しかも飾りといっても、商品の見栄えを大きく高めるものでもない。それは時代の変遷と食文化の変化の中で全くの無役となりつつも、かろうじて消えるのを免れた、奇跡の残滓ともいえるだろう。あまたある「商品」の最下層に属する、ただ捨てられるためだけの菊花なのである。一方、我々日本人にとって菊は特別な花でもある。それは皇室の紋章や葬礼の際にも使われ、格調高いものとして認識される。大量生産され捨てられる菊花と、唯一無二あるいは特別な存在としての菊花。経済大国としての日本と伝統主義的国家としての日本の矛盾や混沌をシンボリックに表現した作品である。
菊花〈きっか〉 , 2014
W40×H40×D1cm プラスティック造花、ファルカタ材、銀箔、鉄釘